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ヘアピン・サーカス [つれづれ日記]

DEL_18_トヨタ2000GT+セリカ+アルファ - コピー.jpg

「ヘアピン・サーカス」、1972年4月に公開された日本映画です。先日、Blu-rayを購入して観ました。
かなり期待して観たのですが、想像を遥かに超える素晴らしい映画でした。

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原作は五木寛之の同名の短編小説です。

この映画の公開は1972年4月、私が高校に入学した時です。自動車運転免許を取得できる年齢ではありませんでしたが、中学から高校時代は一時的(?)に鉄道よりも圧倒的にクルマへの関心が高く、クルマが主役のこの映画には興味津々でした.。しかし、残念ながら映画を観るタイミングを逸してしまい、早50年が経ってしまいました。

映画公開の数年後、五木寛之の短編小説集で「ヘアピン・サーカス」を読みましたが、小説にはあまり感銘を受けなかったっことを憶えています。

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主人公は「島尾俊也」、元レーサー、ライバルだったレーサーをマカオグランプリで競り合って事故死させてしまったことから、レーサーを辞めて今は自動車教習所の個人指導員となっています。

ある日、高速道路で挑発に乗ってきそうなカモとなるクルマを見つけて、スピードを競ってコーナーで事故に追い込む若者のグループを目にします。

第一次世界大戦のドイツ軍撃墜王リヒトホーフェンの第一戦闘航空団に因んで、若者たちは自らを「ヘアピン・サーカス」と呼び、スピードを競うことを “空中戦”、事故に追い込むことを‘’撃墜‘’と呼んでいた。

グループのリーダー格の女性「小森美樹」は、主人公が個人指導員としてクルマの運転を教えた教え子でした。

主人公の忠告にもかかわらず、グループは空中戦を続け、撃墜されるカモが増えていきます。

そして、主人公はカモを探しにやってきたグループの挑発に乗ったふりをして、グループのメンバを次々と撃墜、最後、一対一の空中戦でリーダー格の女性を撃墜する。

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DEL_18_見崎+江夏 - コピー.jpg

主人公を演じたのは見崎清志、トヨタワークスのレーシングドライバーです。
当時、初代セリカ、初代カローラレビン/スプリンタートレノなど、ツーリングカーレースでの活躍が特に印象に残るレーシングドライバーです。1973年から富士グランチャンピオンシリーズにも参戦、ローラT290やマーチ745BMWでの活躍も記憶に残っています。
見崎清志さんの端正な顔立ちとアンニュイな雰囲気、レーサーの過去を引きずっている少し影があるニヒルな個人指導員の役柄にピッタリです。

「ヘアピン・サーカス」のリーダー格を演じる女優は江夏夕子(A級ライセンス保持者)です。
1972年の富士グランチャンピオンシリーズでレースクイーンをつとめていたことが記憶に残っています。スピードに取り憑かれて空中戦に興じる小生意気な若き女性の役を好演しています。

リーダー格の女性の取り巻きの「アキラ」と「ター坊」は、やはりトヨタと所縁のあるレーシング・ドライバーが演じています。

「アキラ」を演じるのは舘信秀、のちに「トムス」を設立して社長に就任、トヨタのワークスチーム「トヨタ・チーム・トムス」の監督も務めました。

「ター坊」を演じるのは佐藤文康、残念ながら1983年5月、富士グランチャンピオンシリーズの第2戦の練習走行中に事故で亡くなりました。

舘信秀さん、佐藤文康さん、演技ではなく地で行っているのかと思うくらい、軽薄なチンピラ風情のワルの役にはまっています。

DEL_18_見崎+江夏+舘 - コピー.jpg

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オートモビル・ディレクターは元トヨタワークスのレーシングドライバー大坪善男、トヨタを去って映画界に入った経歴の持ち主です。

Blu-rayの映像特典の関係者インタビューで語られているように、公道での走行シーンの撮影は全て無許可で行なわれたとのことです。運転したのは見崎清志、舘信秀、佐藤文康、大坪善男、そして「小森美樹」の運転シーンは江夏夕子のアップのシーンを除いて、大坪善男、舘信秀の運転です。

撮影はコマ落とししてスピード感を出すことはせずに、標準コマで映像のままのスピードを出しての撮影です。夜の首都高そして対向車のある都会の一般道、息を呑むような信じられないスピードでクルマを走らせています。

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「ヘアピン・サーカス」、ジャズを抜きにすると語ることができない映画です。この映画の一方の主役がジャズと言っても過言ではありますん。

菊池雅章が音楽を担当しています。
撮影されたラッシュを観ながら、菊池雅章クインテットが即興で演奏した音楽は素晴らしいの一言です。スピードと刹那的な音楽、胸騒ぎのような緊張感を生んでいます。
1960年代末から70年代のエレクトリック・マイルスを彷彿とさせるサウンド、映画音楽の概念を超越しています。映像と音楽の対等なぶつかり合いはとても新鮮で見事です。

主人公のライバルで事故死したレーサーの婚約者を笠井紀美子が演じていることも、ジャズファンには嬉しいです。一瞬だけですが彼女が歌っているシーンも観ることができます。

DEL_18_笠井紀美子 - コピー.jpg

菊池雅章クインテットの演奏はサウンドトラック・アルバム(CD)として発売されていましたが、残念ながら廃盤になっています。とても素晴らしい演奏なのでレコード会社には再発売を望みたいです。

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そして、この映画のもう一方の主役はもちろんクルマです。1960年代後半から1970年代初めの名車たちが登場します。

「小森美樹」はトヨタ2000GT、「島尾俊也」はサバンナクーペGSⅡ(RX-3、10Aエンジン搭載の初期モデル)、「アキラ」はセリカ1600GT(初代ダルマセリカ)、「ター坊」はアルファロメオ1750GTVをドライブします。これらの名車たちが疾走するシーン、クルマ好きには堪りません。

Blu-rayの映像特典の関係者インタビューで大坪善男さんは、「小森美樹」がドライブしたトヨタ2000GTはアルミボディ製で1966年のスピード・トライアル向けに作られた車両だったと話されています。

DEL_18_トヨタ2000GT - コピー.jpg

1972年4月の映画公開当時、既にトヨタ2000GTの生産は終了していました。走る芸術品トヨタ2000GTは超別格としても、セリカ1600GT、サバンナクーペGSⅡも抜群のカッコよさです。当時の国産車、今日の国産車には感じられなくなったニッポンのクルマとしてのアイデンティティがあり、とても魅力があります。

DEL_18_サバンナ - コピー.jpg

撮影に使用されたクルマは、この4台とマカオグランプリのシーンに登場するホンダ1300のエンジンを搭載した2座席レーシングカーのワールドAC7、エバ・カンナムを含め、全て大坪善男さんの所有だったと関係者インタビューで明かしています。

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夜の首都高、夜の都会を疾走するいにしえの名車の映像、名車が奏でるエキゾーストノートと鮮烈なジャズの絡み合い、この映画のかけがえのない魅力です。

いにしえのモータースポーツを懐かしみ、ジャズが好きな私に深い感銘を与えてくれました。

もしも、私が50年前、1972年の公開時にこの映画を観ていたら、もしかしたら、ここまでの感銘は受けなかったかも知れません。

50年前、トヨタ2000GTは滅多には見掛けませんでしたが、サバンナクーペGSⅡやセリカ1600GTは当たり前のように公道を走っていました。中学時代の友人のお父さんも乗っていました。

50年前、私はジャズには出会ってはいませんでした。ジャズを聴くようになったのは、それから4年後のことです。

今の私が抱いている、いにしえのモータースポーツやクルマを懐かしむ気持ちとジャズを友と思う気持ちが、「ヘアピン・サーカス」を観て深い感銘を与えてくれたのだと思います。

この映画を観て、エキゾーストノートがクルマの魅力には不可欠であることを再認識しました。EVには決して乗るまいと決意を新たにしました(?)。

それにしても、初代サバンナ、初代セリカ、ため息が出るほどカッコいいなぁ! もう、こんな国産車は現れないだろうなぁ・・・

そして、トヨタ2000GT、まさに走る宝石です。私にはトヨタ2000GTより美しいクルマは思い浮かびません。。。


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nice!(210)  コメント(14) 
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コメント 14

こんちゃん

中学生の頃ですね、全く記憶にない映画です
車の名前は知っていますがまだ興味が湧いていない時期かと思います
出演者も江夏夕子しか分かりません
大人になって考え方、感じ方が変化してますからね
by こんちゃん (2022-04-27 07:40) 

Rchoose19

車の名前は懐かしい感じがします♪
この映画は出演者の方が役者さんではないのですか?
皆さん、レースの関係者の方なんでしょうか?
by Rchoose19 (2022-04-27 08:10) 

芝浦鉄親父

こんちゃん様、こんばんは。
「ヘアピン・サーカス」、当時ヒットしなかったので知る人ぞ知る映画だと思います。
私は1960年代半ばから4輪のモータースポーツに関心があったので、出演したレーシングドライバーの名前は知っていました。
この映画が公開された1972年、今思うと魅力的なクルマが溢れていたように思います。
by 芝浦鉄親父 (2022-04-27 21:06) 

芝浦鉄親父

Rchoose19さま、こんばんは。
出演者は主演の見崎清志さん、そして舘信秀さん、佐藤文康さんがレーシングドライバー、笠井紀美子さんはジャズ・ボーカリストで本職の俳優さんではないです。
江夏夕子さんは本職の女優さんで目黒祐樹さんと結婚されました。
レーシングドライバーが実際にクルマを運転しているからこそ、この映画の臨場感みたいなものが生まれたのだと思います。
by 芝浦鉄親父 (2022-04-27 21:19) 

coco030705

こんばんは。
車好きにはたまらない映画でしょうね。五木寛之は車が大好きで、いつもいい車に乗って、気に入った女流作家を誘ってドライブしたりなさっていたみたいですよ。
by coco030705 (2022-04-27 23:29) 

芝浦鉄親父

coco030705さま、おはようございます。
「ヘアピン・サーカス」、万人受けする映画ではありませんね。
ある一部のクルマ好き(?)が、とても気に入る映画だと思います。
Blu-rayの映像特典の関係者インタビューで製作の安武龍さんが、五木寛之さんのことを自動車フェチと話されていますが、この映画からも、そのことが伝わってくるように思えます。。。
by 芝浦鉄親父 (2022-04-28 08:26) 

yokomi

昔はいろいろと素敵な車がありましたね(^_^)v
by yokomi (2022-04-28 13:41) 

芝浦鉄親父

今のクルマよりもこの時代のクルマのほうが、個性的で華があったと思います。そして、スポーティーなクルマが多かったです。
今のクルマは、どれも似たり寄ったりで個性に乏しく、私が見て熱くなれるクルマが少なくなりました。
by 芝浦鉄親父 (2022-04-29 09:07) 

そらへい

1972年というと、私は上京してジャズが面白くなり始めた頃です。
反対に車には晩稲でさっぱりだったので、この映画のことも興味がなかったのだと思います。
セリカやサバンナ、2000GT、レビン、トレノなどは車に興味を持ってからよく耳にした車名です。
この頃のジャズ喫茶などを中心にしたジャズの文化が面白かったように
車も面白い時代だったのでしょうね。
by そらへい (2022-04-29 22:17) 

SGW

懐かしい〜〜。私も免許取り立てで車に熱中していたころです。当時、サバンナは暴走族の代名詞みたいな車でしたね。トヨタ2000GTは別格ですが、映画「007は二度死ぬ」に出ていました。
by SGW (2022-05-01 10:51) 

芝浦鉄親父

そらへい様、こんばんは。
おっしゃる通り、1960年代から1970年代にかけて、音楽(ジャズ、ロック)は今日と比べられないほどのエネルギーを持っていて、文化、風俗に大きな影響を与えていたと思います。面白い、佳き時代でした。
排出ガス規制が強化される前の国産車、魅力的なクルマに溢れていました。
by 芝浦鉄親父 (2022-05-01 19:18) 

芝浦鉄親父

SGWさま、こんばんは。
「007は二度死ぬ」、奇妙な(?)映画でしたが、オープンでワイヤーホイールのトヨタ2000GTがとても印象的でした。
50年前、サバンナ、カローラレビン/スプリンタートレノ、走り屋御用達(?)のクルマでした。いい時代だったなぁ・・・
by 芝浦鉄親父 (2022-05-01 19:29) 

miagolare

視聴しました。
何だか最後が衝撃的すぎるー!
窓から手が出てる。(怖)
by miagolare (2022-05-10 16:05) 

芝浦鉄親父

miagolareさま、こんばんは。
原作小説のラストは憶えていませんが、映画のラストは衝撃的ですね。
西村潔監督は事故死した「小森美樹」を「島尾俊也」が抱きかかえて涙を流すというラストを求めましたが、見崎清志さんが涙を流す演技は無理と監督に伝えたことで、このラストになったとBlu-rayの関係者インタビューで見崎清志さんは語っています。
見崎清志さんは、涙を流すという監督の要求に応えられなかったことで本職(?)の俳優は自分にはできないことが解ったと話されていました。。。
by 芝浦鉄親父 (2022-05-10 20:50) 

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